ユーザーに対して積極的に解決方法を提案できるWeb接客ツールへのニーズが高まっています。Sprocketでは、Web接客ツールを類型化して俯瞰することで、目的や課題から各企業が必要とするツールの見通しが立てられるのではないかと考え、代表的なWeb接客ツールを独自調査に基づき分類・一覧化しました。
今行うべきオンライン接客とは? デジタル接客・Web接客との違い
2020年のコロナ禍の影響もあり、「インターネットで接客を提供しよう」という動きが急速に広がっています。この記事では、オンライン接客、デジタル接客、Web接客などと呼ばれる接客手法の考え方や実例、接客の本来の価値などについて説明していきます。
自社に必要なツールを選定・比較する際にご活用いただける、『Web接客ツールカオスマップ』をご用意しました。
1. オンライン接客、デジタル接客、Web接客とは?
「インターネットでの接客」を表現する言葉としてはもともと「オンライン接客」があり、2~3年ほど前からは「Web接客」という言葉も使われています。
2020年7月の日経クロストレンドの調査(※1)では、「デジタル接客」という言葉が注目すべきトレンドとして取り上げられています。それぞれの言葉には、どのような違いがあるのでしょうか。
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デジタル接客はさまざまな手法を含んでいる
日経クロストレンドの記事では「デジタル接客」とひとくくりにしていますが、具体的な接客の手法は、Zoomでの接客やチャットボット、有人チャットなどさまざまなものがあります。お客さまからしても、Zoom接客とチャットボットでは体験がかなり異なるでしょう。
これだけの差異があるものを「デジタル接客」という言葉でひとくくりにするのは、相当粗っぽいと言わざるを得ないでしょう。それぞれの接客手法が担う役割も、本来異なっているはずです。
オンライン接客はZoom接客的なニュアンス
「オンライン接客」という言葉が使われることもあります。こちらは、人間がリアルタイムに動画や音声でやりとりをするZoom接客的なニュアンスで使われているケースが多いようです。
アパレルやECに造詣が深く、各方面で積極的に情報発信をされている川添さんが書かれている記事(※2)では、さまざまな接客手法を以下の軸でプロットして整理しています。
- 1対1なのか1対多なのか
- 双方向なのか一方向なのか
ここでは、ブログやコーディネート、商品動画などもデジタル接客の種類のひとつとして挙げられています。
デジタル接客、オンライン接客、Web接客は明確に区別されていない
「Web接客」という言葉も3~4年前ごろから耳にするようになりました。Web接客ツールといえば、「ポップアップをパーソナライズして配信するツール」を指すことが多いと思います。
しかし、オンライン接客やデジタル接客の手法として挙げられているものでも「Web接客ツール」と自称している場合もあり、実際にはこれらの言葉が必ずしも明確に区別されているわけではありません。
Sprocketでは、消費者1,000人を対象としたアンケート調査の結果から、Webサイトの顧客体験を向上するオンライン接客についてまとめた資料を公開しています。ぜひダウンロードしてご活用ください。
2. オンラインでの接客の事例
言葉の定義はいったん置いて、オンラインでの接客にどのような事例があるかをいくつか見てみましょう。
ビームス(BEAMS)
セレクトショップ型のアパレル企業として有名なビームスですが、店舗スタッフを巻き込んだ接客の取り組みは国内ECサイトとしてはかなり早かったのではないかと思います。記事執筆時点では店舗スタッフが配信しているコンテンツは、以下のように多岐にわたります。
- スタイリング:自社商材によるコーディネート情報。全身写真と複数の商品で構成
- フォトログ:写真投稿型のブログ。全身コーディネートより内容の自由度が高い
- ビデオ:15~20秒程度のコーディネート紹介動画
- ブログ:いわゆるブログ
これらは店舗スタッフからの配信がメインのため、リアルタイム性のあるやりとりではありませんが、店舗スタッフが積極的にコンテンツ発信を行うことで人間味を強く感じられる作りになっています。
デル(DELL)
PCメーカーのデルも、かなり早期から有人チャットを取り入れています。購入時の疑問などに対応してくれるだけでなく、取引状況なども踏まえ金額交渉も一定応じてくれる模様です(当社調べですw)。
2021年2月時点で、チャット対応は以下のようにかなり長い時間対応を受け付けています。
- 平日 9:00~22:00
- 土日祝日 10:00~22:00
最近ではLINE上での相談も受け付けているようです。
オールユアーズ(ALL YOURS)
こちらもアパレルのECサイトですが、コロナ禍を踏まえてZoom接客をいち早く取り入れています。2021年2月時点では、Webサイトに「個別オンライン接客」というZoom接客の予約を受け付けるページがあり、日時を指定することでZoom接客を受けられるようになっています。
それ以外にも「かんたん質問箱」という名称で、サイズ感など製品に関わる質問をGoogleフォームから受け付ける窓口を設けています。
余談ですが、筆者も好奇心でオールユアーズのZoom接客を体験してみたことがあります。木村社長直々にご対応いただき、個人的に面識があるわけでもありませんでしたので、普通の見込み顧客として接客対応をしていただきました。
「後からネタにするかもな」という思いもあったので正直恐縮する気分もあったのですが、そこはさすがにプロで、30分ほどの接客を受けた後には商品への魅力を強く感じていました。Zoom接客は、店頭で受ける接客ともまた違う、没入感のあるコミュニケーションチャネルだなという感想です。
3. オンラインでの接客手法の種類
紹介した事例は、いずれもそれぞれの商品やビジネスのやり方に合わせてオンラインでの接客手法を取り入れていますが、これ以外にもさまざまな手法があります。
先ほどもご紹介した川添さんの記事では「デジタル接客」という言葉で、ブログや商品動画なども含めたインターネットでの接客手法が幅広く紹介されています。
この図に付け加えるなら、以下の2つが考えられます。
- チャットボット
- ポップアップ
さらに細かく分類すると、チャットボットも以下の2つに分かれます。
- 選択肢を選んでいく、シナリオ型のチャットボット
- 自由入力のテキストを受け付ける、AI型のチャットボット
少し変わった事例としては、店頭に接客用のアンドロイドを置くという試み(※3)も見られます。実店舗にデジタルな接点を用意するという接客手法は、現状ではまだそこまで導入されているわけではありませんが、今後はこうした取り組みも模索が進みそうです。
「接客」とは人間味があることなのか?
川添さんの記事を眺めてみると、ここで挙げられている「デジタル接客」の共通項は「人間味がある」ということがありそうです。
- 担当者や店舗スタッフなどの「人間」が対応している
- コンテンツの作成者(店舗スタッフ)の顔が見える
人間味があることも、接客の重要な要素であることは間違いありません。ただ、デジタルで接客を表現する上では「接客が提供しているそもそもの価値は何か」「それを実現するためには何が必要か」という問いかけから考えてもいいのではないでしょうか。この点は「5. 接客の本来の価値とは」で後述したいと思います。
いずれにせよ、オンラインで展開される接客の手法にはかなりの幅の広さがあることわかります。
4. オンラインの接客手法が登場した背景
ご紹介してきたように、「接客」の領域には幅広い手法が存在します。では、そもそもなぜこうした数々の手法が登場したのかを考えてみましょう。
コロナ禍による店舗スタッフ活用ニーズの増大
日経クロストレンドが2020年に「デジタル接客」という言葉を取り上げたのは、コロナ禍の要因が大きいでしょう。
ご承知のように、コロナの影響でそもそもお店が開けない、お店を開いたとしても営業時間を十分に取れない、客足も遠のいている……という状態が、2021年2月時点でも継続しています。最初の緊急事態宣言が発令された2020年4月ごろに比べると比較的戻ってきたとはいえ、2021年2月の記事執筆時点ではコロナ自体はまだ収束に向かっているとはいえません。この状態が一定期間続く前提でビジネスを組み立てざるを得なくなっています。
そうなると店舗スタッフも手が空いてしまいますので、インターネット上でどのような役割を持てるかということを模索していかなければなりません。Zoom接客に限らず、ライブコマース、インスタライブなど店舗スタッフ発信型のコンテンツに注目が集まっているのはこのような背景が強くあると思います。
インターネット利用者のリテラシー層の拡大
2020年7月に公開された、三井住友カードと顧客時間社が共同で実施した分析(※4)によれば、高齢者のECサイト利用が増大しているそうです。コロナ禍により、これまではインターネットをそこまで利用しなかった層のインターネット流入が増えています。
それに伴い増えてくると予想されるのは、以下の問題です。
- Webサイトの使い方に対する問い合せ
- 「わからない」と離脱されてしまう
- 定着せずにリピートされない
こうした問題を解決する上で、オンラインでのよりていねいな接客手法に注目が集まっているという背景もあるでしょう。
自己解決に任せる体験設計の限界
前述の要因とも重なりますが、そもそもインターネットネットのサービスを設計する際の大前提として、この20年ほど(もっと長いかもしれません)変わっていないことがあります。それは「セルフサービスであること」です。
2000年ごろ、インターネットの黎明期にはセルフサービスでも問題はありませんでした。当時はスマートフォンもなく、インターネットはパソコンで利用するのが前提で、インターネットは情報収集や情報発信に積極的なユーザーが自分たちで物事を解決していくための道具として使われていました。それを象徴するように「情報革命」「○○の民主化」という言葉もよく見かけました。
当時は「個人がエンパワーメントされていく」という未来に筆者自身もとてもワクワクしましたし、「インターネットが普及していくことによる社会の変革に自ら飛び込もう」という思いで起業したことを覚えています。
そのような積極的な利用者にとっては、「自分で何でもできる」ということ自体がインターネットの大きな価値でした。
ところが、インターネットが広く普及するにつれて状況は変わってきています。いまやインターネットは、一部の人たちのための道具ではありません。
総務省が毎年公開している情報通信白書(※5)では、2019年に60歳以上や世帯年収400万円未満の層のインターネット利用が前年に比べて大きく増加していることが見て取れます。
インターネットを利用するデバイスがパソコンからスマートフォンに変わり、画面が小さくなったことで大量の情報を表示するのも難しくなりました。スマートフォンはいつでもどこでも使えることから「ながら」利用が増え、「じっくり探す」というよりも「何となく眺める」ような情報収集が主体となってきています。
筆者にも小学生の子供が2人いて、あたりまえのようにインターネットを使っています。もちろん「情報革命だ!」なんてことは微塵も思っておらず、当然のようにある道具でしかありません。
インターネットは「必要な情報を自分で探して解決するための道具」から、「その瞬間、瞬間に良さそうなコンテンツを消費するための道具」としての性質が強まってきているといえるでしょう。
インターネットの利用者層も、利用の仕方も変わってきている現在、20年前に通用していた「セルフサービス」の前提は大きく見直さなければいけない時期に差しかかっていると筆者は考えています。つまり「自己解決を原則とするオンラインの体験設計は、もはや変えたほうがいい」ということです。これも、さまざまなオンラインの接客手法が生まれた背景のひとつといえるでしょう。
5.接客の本来の価値とは?
気軽な利用が主体になってくると、「物を買う」「サービスを申し込む」といった意思決定を伴う行為の過程において、何かしら意思決定を阻害する要因があると、すぐに離脱してしまいます。筆者はこの要因を「フリクション」と呼んでいます。
例えば、以下のようなことがフリクションになります。
- この服、気に入ってるけどサイズ合うかなあ
- プレゼントにしたいけど、ちゃんと包装してくれるかな?
- 2泊3日くらいの旅行使うカバンが欲しいけど、どう選べばいいだろう
実店舗であれば、店舗スタッフが接客という行為を通じてフリクションを解消することができます。特に優秀な店舗スタッフであれば、フリクションを感じているであろうお客さんを自ら発見し、声をかけて主体的にその解消を促すことができます。
しかし、セルフサービス前提で作られているWebサイトの場合、フリクションを解消するコンテンツや情報を自分で探さなければならず、ハードルが上がります。
つまり接客の本来の価値とは、「フリクションを自己解決できないお客さまをうまくサポートしてあげる」ということになるのではないでしょうか。適切な接客をすることでお客さまの離脱を防ぎ、お客さまからしても購買体験をよりスムーズにしてくれるという関係です。
オンライン接客、デジタル接客、Web接客と呼び方や手法はいろいろありますが、「このような価値提供ができるかどうか」が本来の意味での「接客」といえるかどうかを分けるのではないでしょうか。
6. 接客の価値を実現するために必要な3つの機能
このような接客の価値を発揮するために、実店舗を例にして、接客という行為がどのような機能から成り立っているかを考えてみましょう。
タイミング良く声かけする
まずは「声かけ」という機能があります。接客はお客さんの側から話しかけられてスタートすることもありますが、店舗スタッフからの声かけでスタートすることも多くあります。筆者は仕事柄、店舗販売員の方にヒアリングさせていただく機会もありますが、皆さん一様に「どういうタイミングで声をかけるべきか」という点に気を配っておられることがよくわかります。
お客さまの立場で、店舗を訪れたときのことを思い出してみてください。同じ声かけでも、店員さんがどのようなタイミングで声をかけてくるかによって、接客の印象はかなり変わります。声をかけてほしくないタイミングで来られると「ちょっとうっとうしいな」と思いますが、一方で「今話したいんだけどな」というタイミングで来てくれると、ほっとした気分になりますよね?
お客さまの立場からすると、店員さんに自分から話しかけるのは何となく気が引けるものです。その結果、フリクションを解決できずに離脱、という経験をしたことは、皆さんも一度はあるのではないかと思います。
タイミングの良い声かけはこうした離脱を防ぐことができ、お客さまにとっても良質な体験になります。
お客さまに質問する
続いて、「質問する」という機能があります。声をかけたときにいきなり商品を提案するのは、よほど常連のお客さまで相手の好みがわかっているとき以外ではあまり有効な手とはいえないでしょう。通常は「何をお探しですか?」「何かお困りですか?」など、まずは何かしらお客さまの様子を伺う質問をすると思います。
解決方法を案内する
お客さまの様子や状況がわかった上で、質問への回答を踏まえて適切な商品や気になっていることへの解決を案内することで、お客さんのフリクションを解消することができます。
こうしたプロセスを踏まえると、接客の価値を実現するためには次の3つの機能が必要になることがわかります。
- 声をかける
- 質問する
- 案内する
7. 接客に必要な3つの機能を満たす手法とは?
さて、前述したさまざまな接客手法において、これらの機能は満たされているのでしょうか?
再度、川添さんの記事で挙げられている手法を眺めてみましょう。
このうち、右半分の領域は基本的には情報発信側からの一方通行になりますので、「案内する」ことはできても「声をかける」「質問する」という機能は持ち合わせていません。
この図の中で「質問する」機能があるのは、左上の領域になります。しかし、図に記載されている接客手法では、接客中のチャネル内でのテキストや音声のやりとりとなりますので、Webサイト内を案内するような形を取ることはできません。
どのように「声かけ」を行うか?
難しいのは「声をかける」機能をどう実現するかということです。
チャット接客サービスの中には、Webサイト回遊中に特定の条件を満たすユーザーに対して話しかけることができるサービスもあります。それには行動をリアルタイムに観察(データトラッキング)することが必要で、かつ何らかの「声をかける」に相当するアクションが必要になります。
図にはありませんが、現状「声をかける」に最も近い体験を表現できるのはポップアップ型のWeb接客サービスです。トラッキングしている行動データの種類が多く、また蓄積期間も長いものが多いので、より適切なタイミングでの声かけを実現できます。
自分から話しかけられる積極的なユーザーにとっては、質問が気軽にできる手法が用意されていれば十分でしょう。しかし、前述したように自己解決ができないユーザーにとっては、お問い合わせフォームやZoom接客などさまざまな接客手法を用意しても、それを使うこと自体がハードルになりかねません。その結果、わからないことは敬遠されてしまいがちです。
これからのオンラインでの接客は、さまざまな接客手法を用意するだけでなく、適切なタイミングでユーザーに声をかけて、適切なチャネルに案内することも含めた接客体験を設計することが大切です。さまざまな手法がありますので、うまく組み合わせて考えていきましょう。
8. まとめ
本記事では、オンライン上でのさまざまな接客手法を紹介しました。「なぜ接客が重要なのか」という背景や、それぞれの手法の特徴を理解しながら、自社のユーザーにとって最適な接客体験を構築していくことが大切です。
接客のそもそもの価値と必要性を考えれば、「自社のユーザーに対しては、どのような組み合わせで接客すればいいか」かが見えてくるのではないかと思います。
接客手法にはさまざまなものがありますが、「どれか1つでいい」という性質のものではありません。「店舗スタッフのリソース有効活用」という視点だけでなく、「顧客の体験価値の向上」という視点もあわせて、自社にとって最適な接客手法の組み合わせを考えてみてください。
参考記事
- ※1 コロナ禍のマーケで注目 「デジタル接客」「カスタマーサクセス」
- ※2 一過性で終わらない!デジタル接客・オンライン接客の種類と特徴をおさらい
- ※3 商業施設にアンドロイド登場 接客などで実証実験へ 大阪
- ※4 コロナ影響下の消費行動レポート~高年齢層のECサイト活用加速と変化する巣ごもり消費~
- ※5 総務省 情報通信統計白書令和2年版
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