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間違いだらけのバズワード「UX(ユーザーエクスペリエンス)」の本当の意味。UIやCXとの違いを説明できますか?
「UX(ユーザエクスペリエンス)」は誤用が多いバズワードです。この記事では、可能な限り1次情報を取り上げて、概念やコンセプトが含まれるUXの定義、成り立ちなどをまとめ、UIやCXとの違いを説明し、UX改善に取り組むためのアクションをお伝えします。
UXとは?
UXとは「ユーザエクスペリエンス」の略で「製品やサービスの利用を通じて生じるユーザーの知覚や反応」の総称です。しかし多くのメディアやWebサイトでは、操作画面をUXと言うなどの誤用が多く見受けられます。まずは正しいUXの定義から見ていきましょう。この記事は、UXの専門家である上野裕樹監修のもとで制作しています。
なお、最新の定義では音引きなしの「ユーザエクスペリエンス」となっていますが、本文では一般的に使われている「ユーザーエクスペリエンス」と表記します。
UXの定義
UXの定義は、日本産業規格のひとつである『JIS Z 8521:2020 人間工学-人とシステムとのインタラクション-ユーザビリティの定義及び概念』で明確に記載されています。同規格の全文は、日本規格協会のWebサイトで購入できます。
JIS Z 8521:2020の4~5ページ目では、UXについて次のように書かれています。
3.2.3 ユーザエクスペリエンス(user experience)
システム,製品又はサービスの利用前,利用中及び利用後に生じるユーザの知覚及び反応。
注釈 1 ユーザの知覚及び反応は,ユーザの感情,信念,し好,知覚,身体的及び心理的反応,行動並びに達成感を含む。
注釈 2 ユーザエクスペリエンスは,ブランドイメージ,表現,機能,性能,支援機能及びインタラクションの影響を受ける。また,ユーザの事前の経験,態度,技能,個性によって生じる内的及び身体的な状態,利用状況などの要因の影響を受ける。
注釈 3 “ユーザエクスペリエンス”という用語は,ユーザエクスペリエンス専門家,ユーザエクスペリエンスデザイン,ユーザエクスペリエンス手法,ユーザエクスペリエンス評価,ユーザエクスペリエンス調査,ユーザエクスペリエンス部門といった,能力又はプロセスを表すこともある。
注釈 4 人間中心設計では,インタラクティブシステムの設計に関連するユーザエクスペリエンスだけを管理する。
出典:『JIS Z 8521:2020』
これだけではわかりづらいと思いますので、身近な例で考えていきましょう。
身近なUXの例
AさんとBさんは、知り合ってからお互い惹かれ合っていきます。
BさんはAさんにラブレターを渡そうと準備をします。
当日、BさんはAさんに用意したラブレターを渡しました。
その後AさんとBさんは交際し、ラブレターで告白した記憶は、数年後には淡い恋の思い出になりました。
この物語では、ラブレターがシステムや製品に該当します。好意を抱き、手紙を準備して、告白し、恋人になって、数年後に思い出になる。これらすべての体験がUXになります。
もう1例見ていきましょう。
友達と一緒に新しい靴を買ったAさんですが、玄関の収納がいっぱいでした。
お気に入りだった靴を手放すことに決めましたが、大事に使っていたので捨てるのはもったいないと考え、誰かに使ってもらえないかと考えます。
そんなときにフリマアプリを知って、そこで売ることにしました。買ってくれる人がいたので、靴をていねいに包装して送りました。
その後、街で同じような靴を見かけると、その靴の思い出が蘇えります。
この物語では、フリマアプリが製品やシステム、フリマアプリを使って靴を売る、包装して送る、思い出すという体験全体がUXになります。
UXは何か新しい発明などではなく、わたしたちが普段の生活の中で体験していることそのものだと気付かされます。
では、なぜわざわざUXという言葉が産まれたのでしょうか。
UXという概念の成り立ち
18世紀後半の産業革命以後、機械化によって生産性が向上し、複雑な製品が作れるようになりました。当時も製品品質という概念はあったものの、機能や見た目などについてが中心で「利用者に合わせた製品にすべき」という考え方はそれほど広まっていませんでした。
UXという言葉が初めて明確に使われたのは、1990年に認知工学者のドナルド・アーサー・ノーマンが刊行した書籍『The Design of Everyday Things』(邦題:『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』)だと言われています。同書では「利用者の体験にとって製品品質はどうあるべきか」という内容でUXという言葉が使われています。
ノーマンの書籍以後いろいろな人がUXという言葉を使うようになり、多数の定義および評価方法が出てきました。UXをめぐって混乱が続くなか、2010年に世界中のUX研究者30人が集まり、今のUXの定義につながる概念やコンセプトが整理されました。そこでまとめられたのが『UX白書』(有志の日本語訳版はこちら)です。
その後、ISO(国際標準化機構)やJIS(日本産業規格)に「ユーザエクスペリエンス」という用語について説明されるようになりました。
ユーザーにとって価値があり良い体験でなければ選ばれない時代に
なぜ現在、UXが重要とされているのでしょうか。それは「どんなに機能が優れていても、体験が良くないと売れない」ということです。
製品の品質の向上は、人間工学から認知工学、そして感性工学などの研究へ移り、より人の生活や感情、体験側にシフトしてきています。より利用価値があり、より体験価値が高い製品やサービスが選ばれるこの時代、製品の能力だけがいかに高くても、選ばれることはありません。
モノやサービスをオンラインで簡単に比較して購入できる今こそ「製品とかかわることでユーザーにどのような体験が生まれるか」を考える重要性が高まっています。
UXと、UIやCXとの違い
UXとよく混同される言葉に「UI」と「CX」があります。それぞれの違いを見ていきましょう。
UIは操作画面やリモコンなどのインターフェース
UIとは「ユーザーインターフェース」の略で、JIS Z 8520:2022では次のように定義されています。
ユーザインタフェース(user interface)
ユーザがインタラクティブシステムで特定のタスクを達成するための情報及び制御を提供する,インタラクティブシステムの全ての部品(メニュー,タスクバー,アイコンなど)からなる集合
出典:『JIS Z 8520:2022』の3.10
インタラクティブシステムとは「ユーザーが特定の目標を達成するためにインタラクションするハードウェア、ソフトウェア、サービスおよび人々の組み合わせ」(JIS Z 8520:2022の3.4)のことです。
つまり、スマートフォンであれば目的を達成するためにインタラクションする画面が、テレビであればリモコンがUIに相当します。
それに対して、UXは「ユーザーの認知と知覚」のことですので、ユーザーの内部で心理的に起きている体験のことを指します。UIは目に見えたり触れたりできるものであるのに対し、UXは「目に見えるモノやコトではない」ということがポイントです。
CXはマーケティングの概念のひとつ
CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)もよく聞く言葉ですが、CXはUXのようにISOやJISで定義された用語ではありません。
一般的には企業の顧客の体験全般のことを指し、「企業目線ではなくユーザー目線で体験を考えよう」という文脈で使われます。UXと似たシーンで使われることもありますが、CXは競合優位性やLTV向上など、マーケティング的な意味合いが強い言葉です。
3つの言葉は、次のように整理できます。
- UXは、ユーザーの総合的な反応(購入前、購入後、利用時、利用後すべて含む)(参考:JIS Z 8521:2020)
- UIは、製品やサービスの操作画面(参考:JIS Z 8520:2022)
- CXは、マーケティングの評価指標のひとつ
UXとCXの違いがわかりやすいのは、カスタマージャーニーマップです。
UXデザインをするときのカスタマージャーニーマップは、1人のユーザーの、購入前、購入後、利用時、利用後すべての出来事や心理曲線などの体験情報を含みます。一方でCXとして定義するカスタマージャーニーマップは、架空の人間(ペルソナ)で購入までの時間軸を整理するときに使います。ここにも考え方の違いが表れているといえるでしょう。
Sprocketが考える「CX」の定義は、以下の記事でご紹介しています。
こんな説明は間違い! UXのよくある誤用
多くのメディアやWebサイトがUXについて解説していますが、誤った解説も少なくありません。よくある誤解をいくつか紹介します。
UXは数値で評価できる?
UXは数値で評価することができません。
UXとは1人ひとりのユーザーの中で起きている体験のことなので、数値による比較や評価はできません。UX調査の一環としてリッカート尺度(心理検査的回答尺度の一種)によるアンケートやNPS(Net Promoter Score:顧客ロイヤルティ調査)が用いられることはありますが、それは個人の中での相対評価にしかなり得ません。Webサイトを訪れたユーザーが10人いるのであれば、まったく違う背景を持った人間のまったく異なった10通りのUXが存在します。
UXは製品購入後の使い心地や画面のこと?
製品やサービスの使い心地や感性的な美しさもUXに関係はしますが、それはUXに影響を与えるひとつの要素でしかありません。
製品やサービスを認知してから利用するまで、利用を完了した後に過去の体験として思い返すこともUXに含まれます。言い方を変えれば、その製品やサービスと接してユーザーの内面で起きたことすべてがUXになります。
「ユーザー」とは顧客のこと?
後述する「人間中心設計」について規定したJIS Z 8530:2021によると「ユーザー」は下記のように定義されています。
システム,製品又はサービスとインタラクションする人
注釈 1 システム,製品又はサービスのユーザーは,システムを操作する人,システムの出力を利用する人及びシステムをサポートする人(保守及び運用の訓練の提供を含む。)を含む。
出典『JIS Z 8530:2021』
対価を払って製品やサービスを利用する顧客はもちろんユーザーですが、二次的にその製品やサービスにかかわる人、その製品やサービスの結果を受け取る人もユーザーに含まれます。
例えば家庭用の冷蔵庫を例にすると、冷蔵庫を購入した人は一次ユーザー、冷蔵庫の設置やメンテナンスを行う人は二次ユーザー、冷蔵庫を利用する家族は間接ユーザーとなります。ここが、購入者の体験のみを見るCXとの違いになります。
UXはCXの一部分である?
「UXはより広いCXの一部」という説明を見かけますが、これも誤りです。前述したとおり、UXはISOやJISで定義された規格で、CXはマーケティング的な文脈で使われる規格のない概念です。どちらが広い、狭いと同じ図に並べて比べるものではありません。一部では「UXは一時的な体験のみを指す」という説明もありますが、JIS Z 8521:2020の定義とは真逆になっています。
顧客の購買までのプロセスを扱うCXとは違い、UXは「顧客を含む一次ユーザー、二次ユーザー、間接ユーザー」の「利用前から(購買を含む)利用中、そして利用後の知覚および反応のすべて」を指します。
UXデザインはデザイナーの仕事?
このテーマを考える前に「UXデザイン」という言葉について見ていきましょう。UXデザイン、つまり「システム,製品又はサービスの利用前,利用中及び利用後に生じるユーザーの知覚及び反応」を「設計(デザイン)」することは、果たしてできるのでしょうか?
この点では『UX原論』(近代科学社)の228ページにて「UXのためのデザイン(Design for UX)」という表現が正しいと書かれています。
UXのためのデザインができるのは、ユーザーが接するシステムや製品、サービスを変えていくことしかありません。Webサイトや広告、営業の会話、利用するアプリやサービス店舗、サポートなどすべてにおいて一貫した取り組みが必要です。
『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』(新曜社)の405ページでは、「人々が購入し、利用し、楽しみ、その結果、うわさが拡がったとき、そのとき限りデザインは成功である」と書かれています。
つまり、UXのためのデザインとは、デザイナーのみの仕事ではなく、マーケティング、営業、開発、カスタマーサクセス、など事業組織全体でサービスの改善に取り組むことを意味しています。
UXの種類と実例
では、具体的にUXとはどのようなことを指すのでしょうか。1人のユーザーの経験を期間で見る場合、『UX白書』では次のように分類して説明しています。
- 予期的UX … 体験を想像する(利用前)
- 一時的UX … 体験する(利用中)
- エピソード的UX … ある体験を内省する(利用後)
- 累積的UX … 多種多様な利用時間を回想する(利用時間全体)
先ほどの「よくある誤用」でも触れましたが、「UXは一時的な体験のこと」というのが誤りであることはあらためておわかりいただけると思います。
UXの実例「カフェ」
UXの例としてわかりやすく、よく挙げられるのは「カフェ」です。コーヒーを1杯飲むことが目的であれば、缶コーヒーなら100円程度で購入できますし、自宅でインスタントコーヒーやドリップパックを利用すればもっと安く目的を達成できるでしょう。しかし、カフェで飲むと500円か、場合によってはもっとかかります。
それでもカフェに行くのは、なぜでしょうか? それはおしゃれな空間だったり、落ち着いて集中できる環境だったり、流れている音楽だったりと、カフェという空間で得られる体験そのものを求めているからです。スターバックスが「自宅でも職場でもない、第三の場所(サードプレイス)」を提案していることは有名です。
「コーヒーを飲む」という行為(一時的UX)だけではなく「午後はカフェに行こう」と想像すること(予期的UX)や、店を出てから「今日は集中できた!」とSNSに投稿すること(エピソード的UX)、「毎週金曜の午後に来よう」と思うこと(累積的UX)もUXに含まれます。
UXを改善するためには
ここまでUXの定義や正しい意味について説明してきました。それでは、製品やサービスのよりよいUXのためにはどのような取り組みが必要なのでしょうか。
アプローチ方法は「人間中心設計」
UXのためのデザインで、製品やサービスの品質を上げる方法として「人間中心設計(HCD:Human-Centered Design)」があります。人間中心設計とはその名のとおり「人間(ユーザー)を中心に置いて設計する」ことで、JIS Z 8530:2021では次のように定義されており、各種プロセスや評価方法などが書かれています。
システムの利用に焦点を当て,人間工学(ユーザビリティを含む。)の知識及び技法を適用することによって,インタラクティブシステムをより使いやすくすることを目的とするシステムの設計及び開発へのアプローチ
出典:『JIS Z 8530:2021』
「ユーザーに直接聞く」のが最重要
UXの改善にはさまざまな要素がありますが、最も重要なポイントは「ユーザーに直接聞く」という1点です。なぜならUXはユーザーの中にあるもので、外からは見えないからです。
1人ひとり時間をとって対象者とインタビュアーが一対一でデプスインタビューを実施します。それぞれの人間的な背景、そして、時間軸すべての体験を聞き、そこからユーザーの真のニーズを知り、製品やサービス改善に活かしていくという流れになります。
UXのためのデザインにおいて最大の失敗は「ユーザーのことは聞かなくてもわかっている」という思い込みです。
その製品を認知してから、体験前、体験中、体験後それぞれについてユーザーが感じたこと、行動したことをインタビューすることがUX改善の第一歩となります。ユーザーに聞かずにUXを改善することはできません。
まとめ
UXとは「製品やサービスの利用を通じて生じるユーザーの知覚や反応」の総称であり、特定の製品やサービスのUIを指すものではありません。しかし、ほとんどのメディアにおいてUXという単語で製品やサービスのUI(モノやカタチ)を示す内容で書かれています。
UXを改善する第一歩は、ユーザーに聞くこと、つまり「インタビュー」からスタートすることです。そこから、真のニーズを導き、製品やサービスの改善につなげることが最も重要なプロセスになります。
UXのためのデザインに取り組むということは、ユーザーとの接点、つまりマーケティングや営業、開発、サポート、すべてが連携して行う必要があり、組織全体で行うものです。
Sprocketは、ユーザーの行動データをもとにさまざまな仮説を検証する機能を備えています。何も言わずに離脱したユーザーは何を感じていたのか、どう声をかければ良い体験につながるのか。UXのためのWebサイトのUI改善をお考えなら、ぜひご相談ください。
また、本記事を監修した上野が過去に社内勉強会を行ったときの様子も記事にしています。ご興味があればこちらもご覧ください。
参考文献
- JIS Z 8521:2020 人間工学―人とシステムとのインタラクション―ユーザービリティの定義及び概念
- JIS Z 8530:2021 人間工学―人とシステムとのインタラクション―インタラクティブシステムの人間中心設計
- JIS Z 8520:2022 人間工学―人とシステムとのインタラクション―インタラクションの原則
- The Design of Everyday Things ・誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論
- User experience definitions (ALL ABOUT UX)
- UX evaluation methods (ALL ABOUT UX)
- USER EXPERIENCE WHITE PAPER ・ユ ー ザエクスペリエンス (UX) 白書 ・UX原論 ユーザービリティからUXへ
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